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ぞくしゅう
俗臭
織田 作之助
「海風 第五巻六号」海風社、1939(昭和14)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,630 字 · 70 页
だから、その時の千恵造の泪を邪推する気づかいはない。泪を流している人間が慾得のことを考えている、などとはこの男の想像もつかぬことだ。普通、人は屡々慾得のことで泪を流すものだなどとは――。
衣食足らなければ、しかし、千恵造といえども、礼節を知る訳はない。が、そのことは、むしろ次の彼の言にあらわれたと見る可きだ。「賀来子は何の欠点もないのに一生棒に振るのや。如何いする?」暗に手切れ金のことをほのめかしたのだ。それ位は権右衛門も出してもよいだろう。千円の金が用意されていると、船司は答えた。
賀来子はかねてこのことあるを予期していた。千満子の縁談の相手が伯爵家だときくと、彼女も心安らかに身が引けると思った。最近、男の子を貰い子して二人暮しが三人になり、賑やかになる筈だったと泣いたことは泣いた。何れは船司は困らぬ訳には行かぬ。承知の上だが話が纏っても船司は良い気はしなかった。
船司は、ハナシツイタ、ソウキンタノムと大阪の児子家へ電報打った。実は、万一のことを慮って、船司には手切金を持参させていなかったのだ。金が電送され、千恵造に渡そうとすると、受とらなかった。