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しゅぜんじものがたり
修禅寺物語
岡本 綺堂
「文芸倶楽部」1911(明治44)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,737 字 · 26 页
この橋の袂にたたずみて、お帰りを暫時相待とうか。
僧 いや、いや、それはよろしゅうござるまい。桂殿という嫋女をお見出しあって、浮れあるきに余念もおわさぬところへ、われわれのごとき邪魔外道が附き纏うては、かえって御機嫌を損ずるでござろうぞ。
五郎 なにさまのう。
(とは言いながら、五郎はなお不安の体にてたたずむ。)
僧 ことに愚僧はお風呂の役、早う戻って支度をせねばなるまい。
五郎 お風呂とておのずと沸いて出づる湯じゃ。支度を急ぐこともあるまいに……。まずお待ちゃれ。
僧 はて、お身にも似合わぬ不粋をいうぞ。若き男女がむつまじゅう語ろうているところに、法師や武士は禁物じゃよ。ははははは。さあ、ござれ、ござれ。
(無理に袖をひく。五郎は心ならずも曳かるるままに、打ち連れて橋を渡りゆく。月出づ。桂は燈籠を持ち、頼家の手をひきて出づ。)
頼家 おお、月が出た。河原づたいに夜ゆけば、芒にまじる芦の根に、水の声、虫の声、山家の秋はまたひとしおの風情じゃのう。
かつら 馴れてはさほどにもおぼえませぬが、鎌倉山の星月夜とは事変りて、伊豆の山家の秋の夜は、さぞお寂しゅうござりましょう。