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しゅぜんじものがたり

修禅寺物語

岡本 綺堂

「文芸倶楽部」1911(明治44)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,737 字 · 26 页

青空文庫

死んでもわたしは本望じゃ。

(云いかけて弱るを、春彦夫婦は介抱す。夜叉王は仮面をみつめて物言わず。以前の修禅寺の僧、頭より袈裟をかぶりて逃げ来たる。)

僧 大変じゃ、大変じゃ。かくもうて下され、隠もうてくだされ。(内に駈け入りて、桂を見てまたおどろく)やあ、ここにも手負いが…。おお、桂殿……。こなたもか。

かつら して、上様は……。

僧 お悼わしや、御最期じゃ。

かつら ええ。(這い起きてきっと視る)

僧 上様ばかりか、御家来衆も大方は斬り死……。わしらも傍杖の怪我せぬうちと、命からがら逃げて来たのじゃ。

春彦 では、お身がわりの甲斐もなく……。

かえで ついにやみやみ御最期か。

(桂は失望してまた倒る。楓は取りつきて叫ぶ。)

かえで これ、姉さま。心を確かに……。のう、父様。姉さまが死にまするぞ。

(今まで一心に仮面をみつめたる夜叉王、はじめて見かえる。)

夜叉王 おお、姉は死ぬるか。姉もさだめて本望であろう。父もまた本望じゃ。

かえで ええ。

夜叉王 幾たび打ち直してもこの面に、死相のありありと見えたるは、われ拙きにあらず。鈍きにあらず。源氏の将軍頼家卿がかく相成るべき御運とは、今という今、はじめて覚った。