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はいゆうりんり
俳優倫理
岸田 国士
「演劇映画研究所での講義」1940(昭和15)年4月23日開始
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 52,412 字 · 104 页
そうしてこれが演劇の恐らく根本的に他の芸術と違うところである。
従ってその芸術をいとなむというその仕事の中で、俳優はやはり観衆という集団を相手としている。恰も原始民族が一つの群衆となって神を祭った如く、今日の観衆は舞台という祭壇を通じて芸術の神、ミューズの声をきこうと願っている。そのミューズの声を昔の聖職者の如く民衆に伝えるのが即ち俳優なのであります。それと同時に俳優は今日もなお、一つの劇場に集るところの大衆の、人間としての本能、即ち先程もいいましたようにいろいろな意味に於ける近代人の夢を、俳優の演技というものを通して初めて現実の仮感として自分の身に感じることが出来るのであります。いいかえると、俳優はそこにいる大衆のすべての一人一人に代って、それらの大衆の夢を育てている魔法使です。
そこで、人間というものを先ず考えなければならない。人間の夢と私はいいましたけれども、人間の夢というものは実に厄介なものである。非常に美しい夢もあるけれども、しかし、美しいばかりが夢ではない。人間は複雑である。その人間が複雑であるほど夢も複雑なのであります。人間は神に近づこうということばかりを夢想しているのではない。