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にせけいじ

偽刑事

川田 功

「新青年」1926(大正15)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,368 字 · 15 页

青空文庫

孰れにしても彼は悲しく成って来た。

「まあ貴女そう興奮なさらないで下さい。私は決して疑ったの何のと云う訳じゃ無いんですけど、新米の私が探偵研究時代に於ける単なる一つの出来事なんですから」

「研究ですって? 単なる一つの出来事ですって? 女だと思って人を莫迦にするのも程があります。何の証拠も無いのに無垢の人間に疑いを掛けて、研究だとは何と云う云い方です。単なる一ツの出来事とは何です」声は段々癇高い泣声に成って行った。瞼を潤おす涙も見えた。併も女は泣く事に依て一層勇気付けられ、一層雄弁に成るのであった。「口惜しいッ」独語の様にこう云って置いて又続けた。

「名誉ある高等官の妻に向って、能くも汚名を着せたもんです。此儘黙って済されるもんですか。私は出る所へ出て明瞭明しを立てて貰います」

半を眼に当てて大びらに泣き出した。喰い縛る歯が鋭く軋った、往来の人は足を停めだした。彼は最早堪え切れなくなったと同時に、此女が万引をしたのでは無いと信じだした。若しそうでなかったら、女が斯く迄強い事を云う筈が無いからである。

「さあ一緒にお出でなさい。警察署まで一緒に行きましょう。