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きずあとのはいけい

傷痕の背景

豊島 与志雄

「中央公論」1929(昭和4)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,022 字 · 38 页

青空文庫

粗末な餉台の上で、じゃが薯の煮たのと、鮭の焼いたのと……。

「御馳走はないのよ。」

「断るまでもないさ。だが、こんなのは、滋養分が多い……。」

「カロリーに富んでる……。」

「また、台詞か……。」

二人は笑った。が言葉少なに……。

食後、英子が俗謡を口ずさみながら、元気よく後片附けをやってる時、扉を開いて、小林の、日焼けのした、にこにこした顔が、そっと覗いた。

「お邪魔じゃありませんか。」

「やあ、はいれよ。」

杉本の眼は、いつもより、急にやさしく輝きだして、小林を迎えた。

隣室に、二人の大学生と一緒に住んでる、年の若い自由労働者だった。一日働いて疲れきっても、仕事にあぶれて時間をもてあましても、平気でいた。金はないか、と大学生から云われると、持ってるだけのものをすぐ出してやった。大学生が外をぶらついて、自分は仕事がなくて、困りきっても、平気で水ばかり飲んでいた。余り腹がすくと、飯を一杯食わしてくれと、杉本のところへやって来て、二三度分を一度に平らげて、けろりとして、親方のところへ、仕事を貰いに出かけていった。勉強しなくちゃ駄目だ……というので、杉本の書物を借りていった。