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きずあとのはいけい
傷痕の背景
豊島 与志雄
「中央公論」1929(昭和4)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,022 字 · 38 页
重い鉄棒に向って、俺の力で、という気持から、誰も皆、責任感が強い。重量の下に、死んでも、膝を屈げる者や、肩から投げ出す者は、いない。ただ、不注意だけだ。うかと、物にぶっつけて、その反動で肩の肉を破る者は、時々ある。人間には、機械的な注意は……。
そんな風に、まだ続くのを、小林は読み終って、首肯いて、出て行こうとした。
「まあいいじゃないか。」
「隙なんですか。」
「うむ……。あの、例の先生たちは?」
「いませんよ。」
「また、君から金をまき上げて、酒を飲みに行ったんだろう。」
「…………」
小林は黙って、薄ら笑いをしていた。
「まだ君は、ああいう連中と別れられないのか。」
杉本の鋭い視線を、小林は意外に感じたらしく、暫くその眼付を窺ってから、云った。
「別れられるとか、別れられないとか、そういうんじゃありませんよ。同県人で、ああして一緒にいる……。だから、一緒にいるだけです。金のことなんか、向うにない時、僕にあることが多いんで、それで、持っていくんでしょう。あの連中は、酒が飲みたいんです。僕は飲みたくない。だから……。それに、これは僕の修養です。隣人愛というものが、どこまで持ちこたえられるものか、神というものが、窮極まで信じられるものか、どうか、そんなことが、やはり問題になっているから……。