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きずあとのはいけい

傷痕の背景

豊島 与志雄

「中央公論」1929(昭和4)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,022 字 · 38 页

青空文庫

」

突然笑い出した。が、案外真剣で……。

「君はどう考えるですか。」

「え?……。」

そして二人の間に、全く観念的な会話が展開していった。要約すれば――

杉本は云うのである。――ファシズムには、それ自身二つの矛盾を含んでいる。ファシズムは元来、ブールジョアジーの攻勢的武器であって、その対敵目標は、ブールジョアジー以外の凡てにある筈だ。それが、発展の道程に於て、広く大衆に――小ブールジョアジーのみならず、小農民階級やプロレタリアートの或る層にまで、立脚しようとする。そこに機構的矛盾がある。また、ファシズムは、それ自身の独裁を目的とする。随って、議会政治の無用――立法権に対する執行権の優越を、肯定するものである。然るに、それを議会政治の基礎の上に獲得しようとする。そこに手段的矛盾がある……。

有吉は心持ち眉をひそめていた。が敢て抗弁はしなかった。杉本はその肉の厚い顔付に、かすかな笑いを漂わしていた。

杉本は云うのである。――ボルシェヴィキは仮面によって成立つ。彼等一派は、民衆の仮面をつけた纂奪者である。民衆の手に政権を戦い取ったと称しながら、実は民衆を戦い取ったのだ。