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そう
僧
小川 未明
「新小説」1910(明治43)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,206 字 · 21 页
この小さな、軒の傾いた家の前を通った者は、いつもこの家の戸が閉っていたのを見た。別に訪ねて来る人もない。夏の盛りに、真黄に咲いた日廻草は、脊高く延びて、朝日が、まだ東の空をほんのりと染めた間際に東を向いて開いたかと思うと、日が漸々上って、南へ南へと廻る時分には、この大きな黄色の花輪は、中の太い蕊を見せて、日を追い始める。日輪が正午に近づいた頃には、花は緑色の葉を日光に輝かして、さながら汗ばんだように銀色の光を反射して、ぐんなりと頭を日に向って垂れている。々たる日輪はたるんでいる大空を揺つつ動いた。長い真昼の間、花の咲いている家は戸が閉っていた。やがて日輪が桑畑に傾いて地平線が血のように紅く色づき黒く聳えている森に赤色の光線が映ずる頃になると日廻草の一部は蔭って、花は尚も執念く奈落に落ちた日を見ようと、地を向いて突立っていた。
北国の夏の空は、暮るると間もなく濃紺に澄み渡る。星は千年も二千年も前に輝いた光と同じく、今宵始めて、この世を照すように新しく、鮮やかに、湿ぽい光は草の葉の上や、藁家の上に流れた。
虫の啼く、粗壁の出た、今一軒の家には老夫婦が住んでいた。