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そう
僧
小川 未明
「新小説」1910(明治43)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,206 字 · 21 页
立去る時に、家の人に振向いて、
「また来年来ますから。」と言った。
その薬売が、来年になってその家へ来た時、昨年取次に出た婆さんは、昨年の秋死んでしまって、居なかったこともあった。
然るにその薬売は、何うしたか、はや二三年も前からこの村を訪れなかった。その他、毎年のようにきまってこの村に入って来た繭買や、余の物売なども来なくなった。其等のものが来なくなったと同時に、いつしか毎年のように来た、彼の僧も来なくなった。この村に長らく住んでいる老夫婦のものは、今でも彼の僧を記憶している。色の褪めた衣を着て、笠を目深に被って家々の前に立って、経を唱え、磐を鳴らし托鉢に歩いた姿を忘れはしない。また、
「あの坊さんが、村に入って来ると、きっと誰か死ぬる。」と云噂のあった事をも忘れはしなかった。
風が吹き、雨が降り、雪となって、年は暮れ、この村が、今の有様となるまでに十余年の月日は流れた。中風症の、踏切番人が溺死してから、この村に幾たびの変遷はあったがそれ以来、彼の僧は稀にこの村に入って来て托鉢をして歩いたが、人々が少くなって村が衰微してから全く来なくなった。もはや幾年となく来ないので、漸く昔話となった。