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にゅうがくしけんぜんご

入学試験前後

宮本 百合子

「婦人界」1922(大正11)年3月号

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 2,225 字 · 5 页

青空文庫

小さな小学校の建物ばかりを見なれた眼には、気が臆すほど壮大な大玄関で降ろされると、周囲の大混雑に驚かされた。見れば、みな先生だのお母さん、姉さんなどがついて来ている。自分だけはたった一人で、まるでどうしていいのか判らないのである。ここへ先生が出て来て親切に待合室へ七十二という札を持たせてつれて行って下さった。

ストーブの暖い、上の水皿から湯気のぼうぼう立つまわりに、大勢成人や自分くらいの人々がい、独りぼっちで入って来た自分を驚いたように見る。――自分が試験されるのだから、母などは、ついて来るものとも思っていなかったのである。が、この光景を見ると、自分は急に心淋しくなった。そして一そう成人ぶった顔もし、眼の端から泣いて何か母親に訴えている娘や、心配そうに本を出して見ているリボンの後姿を眺めた。――

第一日の試験に出来たつもりの算術が大抵ちがっていたのを知って、自分はどんなに涙をこぼしただろう。また、到底駄目に定ったと思って銀座へ遊びに行き、帰って玄関の暗い灯で、手に持った葉書を何心なく見、それが入学許可の通知であると知ったとき、歓びは、何に例えたらいい程であったろう。