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いちょう

公孫樹

豊島 与志雄

「改造」1925(大正14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,764 字 · 20 页

青空文庫

庭の中ですもの。」

それには父も閉口したらしかった。小便の効能で生き返ったのだと冗談を云いながらも、もう生き返った以上は……と小便を止めてしまったらしかった。足の皮ばかりの肥料となった。

その頃から、父は元のように元気になり、頭もよくなったとみえて、前に倍して働き初めた。そして二年後には、本当に家を買い取ってしまった。

その晩は一家中の喜びだった。僕達まで何だか嬉しかった。母は眼に涙をためていた。父はいつまでも酒を飲んでいた。

「少し古いけれど、いつでも建て直せるんだからね、……それにもう長年住み馴れたのだから、元々から自分の家のようなものだ。だから俺は、あの通り公孫樹を大きくして根を張らせたのだ。」

そんなことを父は感慨深そうに云って、やがては地所も買いたいなどと云っていた。

然し父のそういう元気には……というより、父の頭には、火事の時以来ひびがはいっていたのかも知れなかった。三年後に、脳溢血でふいに死んでしまったのである。遺言を聞くひまもなく、医者も間に合わないくらいだった。入浴をしてから、二階の書斎で暫く何かしているうちに、ふいにぶっ倒れたきり、もう再び意識を回復しなかった。