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いちょう
公孫樹
豊島 与志雄
「改造」1925(大正14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,764 字 · 20 页
父は祖母と二人で暮している時、或る女と関係した……というより、恋をしたと云った方がいい。相手の女は、恐らく一時手伝いの女か女中か或は看護婦か、何でも家に親しく出入りした女に違いない。そう云えば、祖母がまだ生きてた頃、家にしばしばやって来て、祖母と話しこんでいった女がある。皆からお千代さんと呼ばれていた。祖母が亡くなってからはぱったり来なくなった。その、顔の細長いどこかきさくな性質の、そして余り上品でないみなりの「お千代さん」が、相手の女だったかも知れない。その女が遂に妊娠して子を産んだ。ところが父の田舎の家は、古風な堅固しい家風だったので、前々から従妹と婚約がしてあった。そこで父はいろんな義理にからまって、従妹と結婚するようになった。そして女とその子供とをよそへやってしまった。戸籍も初めからはいってはいなかった。その子供が即ち公樹だ。結果は初めから分っていたので、父は女と共にセンチメンタルな感情に駆られて、庭の隅に公孫樹なんかを植えて、心の中を誓い合った。そしていつまでも、あんな風に公孫樹を大事にしていたに違いない。
人の頭は何て馬鹿げた想像を逞うするものだろう。