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いちょう

公孫樹

豊島 与志雄

「改造」1925(大正14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,764 字 · 20 页

青空文庫

よ伸びよと心で叫んでいた父の気持が、ぴたりと胸に来るようになった。はっきり説明することは出来ないが、何だかこうどす黒い力強い気がするのだ。昔の日本風の建築と今の洋式の建築との違いだ。もう今では、香りのいい檜材なんかを鉋で削ってばかりはいられない。そういうことも必要だが、それ以下のことが――趣味的に以下のことが、更に必要なんだ。

そして僕は、これからあの公孫樹に小便をひっかけてやろうかとさえ思う。父の意志を受け継いで、家敷の地所をも買い取りたいとさえ思っている。とてもそんな金は及びもつかないが、それが出来たら愉快だろう。家屋なんかどうだっていい。父が家屋だけを買ったのは間違いだ。家屋は他人の所有でもいいから、地所だけは所有したい気がする。地面から公孫樹はつっ立ってるのだ。

勿論これは比喩的な話で、僕は実際そんなに所有慾はない。ただ僕には父の感情がぴったり胸に来るようになった、というそれだけのことなんだ。

「僕にもその気持は分るよ。」と私は吉住が話し終って暫くして云った。

「本当に分るのか。」と彼は不審そうに見返してきた。

「分るような気がするよ。」

「ふむ。