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いちょう

公孫樹

豊島 与志雄

「改造」1925(大正14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,764 字 · 20 页

青空文庫

そのためだかどうだか分らないが、足の胼胝の皮は必ずまとめて、庭の隅の大事な公孫樹の根本に埋めることになっていた。

公孫樹は隣家の軒に近いため、半日しか日が当らなかったが、非常な勢で伸び上って、毎年枝を切り落さなければならなかった。勿論、父が足の皮を公孫樹の根本に埋める癖は、いつ頃から初ったのか僕は覚えていない。然し父が公孫樹の根本に立って、すくすくとした幹を見上げながら、快心の笑みを洩してる姿は、今でもはっきり眼の中に残っている。

「俺の足の皮の養物を吸って、この伸び上った勢を見てごらん。」

そう云って父はよく高らかに笑った。

けれど実際、足の皮ってそれはいくらの量でもなかった。五十銭銀貨大の胼胝を薄く切り取ったものだから、円めても小指の先ほどしかなかった。月に一二回として一年分まとめても、ごく僅かな量にすぎなかった。

「あんな少しばかりのもので……。」と云って母は嗤った。

然し父は、人体の肥料価を主張して止まなかった。そして他に何の肥料もやらなかった。

「だけど、あなた、」と母は別な方面から父を揶揄した、「そんなに公孫樹を大きくしてどうなさるの。銀杏がなるまでにはなかなかでしょうし、それに、もし引越しでもするようになったら……。