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にとせろうじん

再度生老人

佐左木 俊郎

「宇宙」1928(昭和3)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,770 字 · 14 页

青空文庫

「爺様。寒くねえんですか?」

私の父は、彼が湯から出て、また炉傍に座って身体を揺り始めた時、やさしいいたわるような声色で訊いた。

「寒い。寒いが、着物がないから仕方がない。」

再度生老人は、笑いもせずに、真面目な顔で言った。

「そんでも、襖の絵でも描いたら、着物の一枚や二枚は、すぐ出来るだろうがね。」

「それはそうだ。けれども、そんなことを思っていては、ろくな絵はかけんからのお!」

言いながら再度生老人は、白い煙のような頤髯を撫でた。

私は、そんなことを思うと、どうしてろくな絵が描けないのだろうと思った。そんなはずは無いようにも思ったが、この老人の言うことに、間違いは無いようにも思われた。

「わしに、煙草を御馳走してくれるかな。」

再度生老人は、私の父に言った。

「さあ。どうぞ、どっさり……」

父は煙管を拭いて彼に渡した。

「わしは、煙草を買う金もないほど貧乏しているのじゃ。しかし、それは苦にならん。わしは、立派な絵を残せればいいのじゃ。あの和尚のような生活は、わしは厭じゃ。」

彼は、ぱふりぱふりと煙草を燻らしながら、和尚の生活の淫らなことや、吝で、彼には卵を食わせないこと、煙草も買ってくれないことなどを話した。