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ふゆのちょう

冬のちょう

小川 未明

「民政」1934(昭和9)年1月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 2,971 字 · 6 页

青空文庫

「なんの、まだ季節の遅いことがあるものですか。このように、野にはいろいろの花が咲いているではありませんか。このあいだここへやってきた緑色の蛾は、夏のはじめのころ、なんでもおおぜいが群れを造って、あの国境の高い山々を越えて七十里も、八十里も、あちらの方から旅をしてきたといっていました。まだ冬になるまでにはだいぶ間のあることです。いろいろおもしろいことがありますよ。」といって、女ちょうをなぐさめるとともに、自分で、自分をなぐさめたのでありました。

その翌日は、秋にはめずらしい暖かな日でした。強く射す光に、草の葉はきらきらと輝いて、冬などはどこか遠い地平線のかなたにしかないと考えられたのです。

このとき、黒く、雲のように、頭の上の空をかすめて飛んでいったものがあります。女ちょうは昨日から、この野の中に一夜を明かしたのであるが、音のする上を見あげて、渡り鳥にしては小さいと思ったので、

「あれは、なんですか。」と、花に向かって、たずねました。

「あれですか、ばったの群れが、どこかへ移ってゆくのです。」と、花は答えました。

どこかに、もっといい土地があるのであろうと、女ちょうは考えていました。