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とううん
凍雲
矢田 津世子
「婦人文芸」1934(昭和9)年6月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,121 字 · 29 页
鮮血が女の顔に一線をひいた。と、どどっと流れて水溜りを赤く染めた。男の腕が振り上がり、女の頸に突き刺さった。女は低く叫んだ。うつ伏せになり動かなくなった。
犬は狂ったように吠え立てた。二人の廻りをぐるぐる廻っていた。
お高は、現在、達者で、秋田市の茶町に、居を構えていると聞いている。あの事件以来この町にも居づらくなって、間もなく、菅原一家は夜逃げ同様引き移っていってしまった。せんだって、この町の助役の奥さんが、県下へ出たついでに立ち寄った折りの話によると、お高の父親の孫市は、ブローカーとは名ばかりの、下駄べらしに出歩くばかりが能だというし、この年寄りを抱えて、お高は、お針の師匠をつとめるかたわら、手内職ごとで、どうにか生計をたてているという。
奥さんと話している間、お高は、袂で片頬を隠すようにしていたが、大きな疵あとが、眼の下から頸部へかけて、黒ずんだ溝をつくり、そこだけ皮膚がひきつっているため、ちょうど顔半分が竦んでいるようにみえたという。
この奥さんの話から、町の人たちはとりどりに噂をひろげていった。
疵が邪魔とは言いじょう、若い頃あれほどの縹緻よしだったお高が、今迄独り身でおかれるわけはない。