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とううん

凍雲

矢田 津世子

「婦人文芸」1934(昭和9)年6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,121 字 · 29 页

青空文庫

町の人たちの頭には、この七曲りの松の木は、いつも仙太と結びつけられて、不気味に印象されていた。

往還をまだ幌馬車が通っていた頃のことであるから、もう、ずい分と昔のはなしになる。居眠りこけていたこの小さな町を、どよめき立たせるような出来事が起った。

その頃、若かった仙太は、毎日の鬱した心をもてあましていた。恋女房のお高のことばかりが想われた。ふとした貸金のことから、親どうしの張り合いになって、お高は実家に連れ戻されているのであった。

それ以来、若い仙太は、飼犬の黒をつれて、山へ行く日が続いた。

犬は、その日も、尻尾を右巻きにして熊笹の藪に突き進んで行った。仙太は根っ子につまずいて転びそうになったが、立ちなおると、冷えびえする空気を深々と吸いこんで、銃を肩換えした。

風が、うっすらと雪をかむった坊主の守山を一気におりて、松林を鳴らし去った。山の上空を険しく雲が覆うていた。

仙太は、ザザ……と藪へわけ入った。

「黒! 黒!」

犬は笹の間から黒い尖った顔を向けて待っている。

「何してる。そら、そこだ!」

笹藪がはげしく音をたてて、ひとしきり、うねった。犬は、また、黒い瞳を向けた。