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「しょじょさく」よりまえのしょじょさく

「処女作」より前の処女作

宮本 百合子

「若草」1931(昭和6)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,168 字 · 5 页

青空文庫

そこへ、筆で毎日何か書いて行った。

どんな筋だったか、まるで覚えないが、何でも凄い恋愛小説だったことだけは確かだ。

或る夜、海岸、恋している男と女とが、沖の漁火を眺めながら散歩してる。女は、白い浴衣を着、手に団扇をもって、何とか彼とか男に云ってるところまで書いたら、不意に母親がやって来て、

「百合ちゃん、お前がこれ書いたの?」

しようがない。うん、と云ったら、母親はちょっとよんでみた。

「まあ、何だろう!」それっきり、どうしたのかそのケシの花の表紙のついたものはどっかへ消えてなくなってしまった。

さがした。ない。隠されちゃったナ、ぼんやりそう感じながらきっと幾分恨みながらだろうが、いつの間にか忘れてしまった。永い間ズーッと忘れていた。いつだったか近頃になってそのことを思い出した。

その時分、若く元気で、唱歌をうたいながら洗濯なんかしていた母親は、白髪になっている。自分がその桃色の布でとじたものの話をし、

「どこへしまったの?」

ときいたら、

「ホントにねえ、そう云われると、そんなこともあったような気がするね」

と、茫漠とした顔附になった。

「どこにかあるだろうよ、おおかた……」