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しゅっけものがたり

出家物語

坂口 安吾

「オール読物 第三巻第一号」1948(昭和23)年1月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,838 字 · 28 页

青空文庫

「忙しいの? ちょッと寄ってみたのよ。私、会社をやめるから、これからヒマになるわ。私、ノドがかわいたわ」

と勝手に上ってきて、

「お茶ちょうだいよ」

幸吉は火鉢をはさんでアグラをかいて、

「近頃はノベツ喉をかわかしているじゃないか。会社をやめたのかい」

「うん。内部にゴタゴタが起きて、閥やら党派やら、共産党やらね。うるさいから、やめたわ。これから、どうして暮そうかと思って、私、洋裁まだヘタだから独立できないし」

「それはそうだろうさ。それとも、課長は、よっぽど洋裁がうまかったかい」

「課長は洋裁知らないわ」

「じゃお前だって、てんで洋裁はできなかろうぜ」

キヨ子は気がついたらしかったが、平然たるもので、

「私ね。女学校の頃から習ったから、相当うまいわ。自分の洋装、みんな自分で仕上げるのよ」

「どうだい。会社をやめたら、私と一緒になるかい」

ともちかけると、キヨ子は正直にうけとって、

「そうね。でも、あんた、気持のむつかしい人じゃない。私の主人、とてもやさしい、物分りのいゝ人だったわ」

「洋裁の日は何曜日なんだい」

「月水金だけど、もう行かないのよ。以前は月金で水はなかったけどね」