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わかれのじ
別れの辞
豊島 与志雄
「中央公論」1935(昭和10)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,330 字 · 37 页
そしてこういう事柄になると、大西が最も自由放埓な意見を吐いた。大西ばかりでなく、凡て酒の上では、男はみな独身者になる。独身の男の話など、茲に誌すにも及ぶまい。然るに、一座のうちで真の独身者である宮崎は、中途から口を噤んで、空に眼を据えて、酒ばかり飲んでいた。それを相手に、清子がまた酔っていった。そんな話は聞いていられない、聞かないためには、酔うだけだ。そう云って、彼女は大きく叫んだ。おばさん、お銚子下さあい。ふらふらしながら、宮崎と肩を組み合した。ねえ君、飲もう。うん飲もう。細い首の上の大きな島田の髪が、まるで拵え物のように、力なくゆらめいているのを、長尾と大西はぼんやり眺めながら、ばかげた議論をくり拡げていた。何一つ身を入れて為すこともなく、莫大な親の遺産をもてあまし飲みつぶしてる、色白な温容な小肥りの長尾と、表向きは保険会社員だが、あらゆることに首をつきこみたがってる、色の浅黒い筋骨の逞ましい大西とは、好箇の対照だった。だが彼等には共通の取柄があった。人の精神状態は、その生活状態に依るものであり、従ってその経済状態に依るものであるという、本能的な意識と、快楽は一人で味うべきものではなく、大勢で味うべきものだという、放埓な認識とである。