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わかれのじ

別れの辞

豊島 与志雄

「中央公論」1935(昭和10)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,330 字 · 37 页

青空文庫

私は自分の知人や彼から名指されたところを奔走して廻った。成功したのは一回きりだった。暫くたつと、彼はまた至急の金策を頼むのだった。不成功に終っても、別に悲観したような顔はしなかった。私には次第に彼の真意が――真相が――分らなくなった。尋ねても、彼はよく説明しなかった。それだけの金があればさっぱりしてしまうんだ、と云うきりだった。最後のは、可なりまとまった金額で、半端ならいらない、十日間のうちに頼む、というので、私はいろいろ物色した揚句、平素疎遠にしてる遠縁の実業家のところへ、極り悪い思いをしながら当ってみたところ、てんで問題にされずに、悲観してるところだった。

そういう場合だったので、島村が珍らしく……といっても私達の仲間に比べて珍らしく、「笹本」に姿を見せた時、私は不安な予感を覚えた。おけいが大袈裟な迎え方をしたので、奥の室の私達にもすぐ分ったのである。

「なあに、そうでもないけれど、一寸忙しかったから……。」

落付いた声で島村は云っていた。

「ああそう、丁度よかった。一寸呼んでくれませんか。用があるんだ。あとで飲もう。」

おけいから呼ばれるまでもなく、私は皆に断って、席を立っていた。