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わかれのじ

別れの辞

豊島 与志雄

「中央公論」1935(昭和10)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,330 字 · 37 页

青空文庫

」

島村の声の調子は異様に静かだった。宮崎はそれに耳を澄しながら、また足音に聞き入った。じっと足先に眼を落して、いつまでも黙っていた。

「本当に愛するか、憎むか、どちらかだ。中途半端なところは、君の文学に任せておけばいい。」

宮崎はまだ黙っていた。公園をぬけて、寝静ってる街路に出ると、遠くに犬の声がした。

宮崎のアパートの前まで来て、島村は立止った。

「気をつけ給え。」

それきりで、彼は立去っていった。宮崎はそこに佇んで、腕を組んだ。

三

「笹本」のおけいからばかばかしいことを頼まれて、私は弱った。――宮崎がどうしたことか、毎晩やって来ては酔っ払って仕様がない。一寸立寄って、また夜遅くやって来ることもある。無理に帰そうとすると、乱暴もしかねない剣幕だった。それをまた、清子がいい飲み相手にして、手がつけられない。おけいが外に泊る時には、どこでどう打合せるものか、宮崎を引入れて遅くまで飲み明す。それが毎度のことだ……、私は彼女を眺めた。毎度といっても、それから十日とたってはいなかったのだ。……いいえ、そうじゃないんですよ、と彼女は餉台の上を平手でとんと叩いた。