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わかれのじ

別れの辞

豊島 与志雄

「中央公論」1935(昭和10)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,330 字 · 37 页

青空文庫

そして今でも、静葉の目配せを受けると、島村はすぐにうなずいて、それからゆっくり立上った。

二人はそのまま出て行こうとした。

真先に気がついたのはおけいだった。彼女は呼びとめた。

「島村さん、どこへいらっしゃるの。」

島村は向き直っていった。

「外へ出るんです。」

そして彼は一寸皆を見据えた。額が蒼ざめて、口元に云い難い微笑を浮べていた。何でもない言葉であり、何でもない態度であるだけに、その中に籠ってるものが明かに感ぜられた、一種の挑戦と蔑視とが。殊にその微笑は、打撃の効果を意識してる者のそれだった。緊張した空気が流れた。瞬間に、静葉が云った。

「では、皆さん、失礼……。」

長く引張った失礼の発音が、その緊張を皮肉なものにした。誰も口を利かなかった。二人は出ていった。

宮崎が、長卓の上の灰皿を土間に叩きつけた。清子はそれを引止めたが、宮崎はなお、転ってる灰皿の破片を足で蹴散らした。険悪な空気になった。おけいは真蒼な顔をしてつっ立っていた。

「追い出して下さい、乱暴な……。」

呆気にとられていた野口が云った。

「一体どうしたんですか。」

清子が一緒になって灰皿の破片を蹴散らしてるのを見て、おけいは歯をくいしばって、酒をぶっかけようとした。