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わかれのじ

別れの辞

豊島 与志雄

「中央公論」1935(昭和10)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,330 字 · 37 页

青空文庫

妹は今退屈してるのよ。親切な兄さんなら、ゆっくり話していって下さる筈よ。」彼は素気なく答えた。「いや、人形を持ってくれば、もう用はないんです。」そして帰っていった。退院後、彼女はそれらの人形を自分の室の机上に並べて涙ぐんだのだった。

そういうことが、「笹本」のお上さんの口から、また清子の口から、私達の間に知れ渡った。宮崎も隠そうとしなかった。だから私達は、初め、宮崎と清子は愛し合っているのだろうと想像した。然し二人はそういう様子が少しもなかった。殊に宮崎には、清子に興味を持ってる風さえ見えなかった。彼はつまらなそうに酒を飲みに来、酔うとやりきれないところを見せるが、それは清子とは縁遠いものから来てるらしかった。一体私達常習飲酒者は、誰もみな、世の中がつまらないような、何となくやりきれないような、謂わば危機めいた調子をどこかに持ってるものであって、それだから酒を飲むのか、酒を飲みすぎるからそうなのか、その点は甚だ不明瞭で、恐らくは両方だろうが、健全に溌溂と酔っ払う者は至って少い。そして何かしら刺戟がほしくなる。宮崎と清子との仲は何でもないと分れば分るほど、私達は当が外れた気持になっていった。