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わかれのじ

別れの辞

豊島 与志雄

「中央公論」1935(昭和10)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,330 字 · 37 页

青空文庫

……ね、そうでしょう。だから、毎日人形を持って見舞ったということと、僕が彼女を愛したかどうかということと、何の関係があるんです。島村さんにそれが分らない筈はない。そればかりか……あなたなら云ってもいいでしょう……長尾さんや大西さんの尻にくっついて酒を飲まして貰ってるとは、何たるざまだ、飲むなら彼等と対等に金を出しあって飲め、とそう島村さんは云った。僕は……僕は、それがなさけないんだ。島村さんから、そんなことで軽蔑されるのがなさけないんだ。清子なんかどうでもいい、ただ人形を持っていってやった……それと、同じじゃないですか。長尾さんや大西さんや、また、島村さんやあなたや、そのほかいろいろ僕は、酒代のお世話になってる……年も若いし金もないので、支払いの遠慮をしてる。だが、彼等から金を払って貰うことと、僕が酒を飲むことと、何の関係があるんです。向うで嫌なら、一緒に飲まなきゃいいんだ。僕は一人で飲むだけだ。たかってるんじゃない。ねえ、たかってるんじゃないんでしょう。金は誰が払おうと、自分で払おうと払うまいと、それが酒の味をうまくもまずくもしやしない。酒を飲むということだけが、僕の純粋な行為だ。