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とねがわのあゆ
利根川の鮎
佐藤 垢石
「つり人」1948(昭和23)年4月~5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,875 字 · 10 页
故郷の山川草木ほど、なつかしきものはない。四季折り折りの山の姿、水の流れ。それはすべて、我が人生記録である。私は、故郷の人々がどんなに私を侮り貶しても、私は決してそれを意としない。それは、人間よりもっと偉大なものが私を温かく迎えてくれるからだ。いつなん時、故郷の上州へ帰っても、無言の赤城山と榛名山と、利根川がやわらかく微笑して流浪の子である私に、昔と変わらぬ愛情を注いでくれるのである。
なんで、故郷の山川草木が忘れられよう。なんで、尊敬と親愛とを捧げないでいられよう。それは、誰でも同じであろう。
大正の末年、流浪の果てに、私は故郷へ帰ってきた。おそい子持ちであったために、長男がまだ三歳であった。
故郷へ帰ると直ぐ私は、利根川の崖の上に佇んだ。利根は、私の子供のときと同じような響きを立てて流れている。河原の姿にも変わりはない。対岸の松林も、昔ありしままだ。なきは父と母ばかりである。
私は、我が父が私に想い残したように、私も倅に想い出を残そうと思いついた。三月中旬の北風の吹くある寒い日に、三歳になる子供を連れて、奥利根の沼田と岩本の中間にある曲っ滝へ山女魚釣りに行った。