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しせい
刺青
谷崎 潤一郎
「新思潮」1910(明治43)年11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,651 字 · 12 页
苦しかろうがちッと我慢をしな」
と、清吉は耳元へ口を寄せて、労わるように囁いた。
「美しくさえなるのなら、どんなにでも辛抱して見せましょうよ」
と、娘は身内の痛みを抑えて、強いて微笑んだ。
「あゝ、湯が滲みて苦しいこと。………親方、後生だから私を打っ捨って、二階へ行って待って居てお呉れ、私はこんな悲惨な態を男に見られるのが口惜しいから」
娘は湯上りの体を拭いもあえず、いたわる清吉の手をつきのけて、激しい苦痛に流しの板の間へ身を投げたまゝ、魘される如くに呻いた。気狂じみた髪が悩ましげに其の頬へ乱れた。女の背後には鏡台が立てかけてあった。真っ白な足の裏が二つ、その面へ映って居た。
昨日とは打って変った女の態度に、清吉は一と方ならず驚いたが、云われるまゝに独り二階に待って居ると、凡そ半時ばかり経って、女は洗い髪を両肩へすべらせ、身じまいを整えて上って来た。そうして苦痛のかげもとまらぬ晴れやかな眉を張って、欄干に靠れながらおぼろにかすむ大空を仰いだ。
「この絵は刺青と一緒にお前にやるから、其れを持ってもう帰るがいゝ」
こう云って清吉は巻物を女の前にさし置いた。
「親方、私はもう今迄のような臆病な心を、さらりと捨てゝしまいました。