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こくこく
刻々
宮本 百合子
「中央公論」1951(昭和26)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,401 字 · 73 页
自分は、廊下の外から枕元の金網に鼻をおしつけるようにして見守った。間もなく、今野は唸るのをやめ、力いっぱい血走った眼で上眼をつかいハッ、ハッと息を切りながら、
「中條さん……切ないよゥ」
自分はたまらなくなった。錠をはずしてある鉄扉を押しあけ、房の内に入った。高熱で留置場の穢れた布団が何とも云えぬ臭気を放っている。自分は、垢と病気で蒼黒く焼けるような今野の手を確り握り、やつれ果てた頬を撫でた。
「何だか……ボーとなって来たよ」
「頭、ひどく痛い?」
「頸の……ここが(手をそろりと後へやって)痛い……体じゅう何だか……」
自分は、全く畜生※(感嘆符二つ、1-8-75) と思い自分の体までむしられる思いがした。
「――今野!」
夢中になりそうになる、忠実で、強固で、謙遜な同志の膏のにじみ出た顔へぴったり自分の顔をさしよせ、私は全身の力をこめて低く呼んだ。
「今野」
その声で薄すり目をあけ、こっちを見た。
「まだ死んじゃいけないよ。いいか? 口惜しいからね、死んじゃいけない! いいか?」
「ああ」
「しっかりして……」
「あァ……」かわいた唇をなめて微かに「わかってるヨ」