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こくこく

刻々

宮本 百合子

「中央公論」1951(昭和26)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,401 字 · 73 页

青空文庫

南京虫が出て、おちおち眠られない。

「夏になったらそれこそえらいもんだ。去年ここのところへ」

と、腐れ布団の入っている戸棚わきの柱のわれ目を叩きながら看守が云った。

「イマズをまいたら一どきに八十匹ばし出た」

花曇りの期節が終ると、いつとなし日光の強さがちがって来て、日がのびた。第一房の金網ばりの高窓からチョッピリ三角形に見える青空と、どこかの家の黄色っぽいペンキを塗ったトタンの羽目が落付かない光で反射するようになった。非人間的な無為と不潔さでしずまりかえっている留置場の永い午後、表通りの電車のベルの音がひろく乾いて近づくにつれ波のように通りぬける。

看守は多く居睡りをした。監房の中では男たちがシャツや襦袢を胡坐の上にひろげて、時々脇腹などを掻きながら虱をとっている。

目立って自分の皮膚もきたなくなった。艶がぬけ、腕などこするとポロポロ白いものがおちる。虱がわき出した。虱の独特なむずつき工合がわかるようになった。おや、と思って襦袢を見ると、小さい小さい紅蜘蛛みたいな子虱までを入れると十五匹つかまえる。そういう有様である。

或る日の午後二時ごろ。――一台の飛行機がやって来た。