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こくこく

刻々

宮本 百合子

「中央公論」1951(昭和26)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,401 字 · 73 页

青空文庫

「えらいところへ出ましたね、寒いゾ」

と、坐ったまま首だけのばして云った。保護室を通りすがったら、

「馬鹿にしてるね!」

今野が立膝をしたなり腹立たしげに、白眼をはっきりさせて云った。

「ふむ!」

成程、こういう風な人の動かしかたを、万事につけてやるものであるか。自分は強くそう思った。何も説明せず、先はどうなるのか見当がつかないように小切って命令し、行動の自主性を失わせる。弱い心を卑屈にするにはもって来いのやりかたである。

強盗が、カラーをとったワイシャツの上に縞背広の上衣だけきて入れられて来たが、留置場は冷淡な空気であった。何もとらずにつかまった。それが強盗としてのその男に対する与太者たちの評価に影響しているのであった。看守だけが、

「――つまらんことをやったもんだな。顔を知られてるにはきまってるでねか。今度やるなら、もっとうまいとこやるんだ! う?」

監房の金網に顔をさしよせて内を覗きながら云っている。その二十三四の八百屋だという男は、ガンコに頭をたれたきり腕組みをして身動きもしない。

廊下の羽目からは鋭い隙間風が頸のうしろにあたって、背中がゾーゾーする。