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こくこく

刻々

宮本 百合子

「中央公論」1951(昭和26)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,401 字 · 73 页

青空文庫

母親は保守的になって、しかも仏いじりの代りに国体を云々するようにその強い気質をおびきよせられているのであった。

疲れるといけないからと母親をかえして、元のコンクリートの渡りを、鼻緒のゆるんだアンペラ草履で渡って来ると、主任が、

「え? 世の中は皮肉に出来ているもんだね」

と声をかけた。

「…………」

「おっかさんは心配していろいろ云われるが、却って対立をはっきりさせる結果になるばかりじゃないですか。ひ、ひ、ひ」

「――――」

監房に入っても、自分は考えに捕われていた。情勢は、こういう風なモメントを経て、多くの中間層の家庭を様々な形に崩壊させて行くのである。そして、敵は抜目なくその間から自身の利用すべきものを掴むのだ。

向い合って坐っていた女給が突然、

「いやァ! こわい!」

と袂で顔を押え、体をくねらしたので、自分はびっくりして我にかえった。

「どうしたの?」

「だってェ……あんた、さっきからおっかない眼つきして、私の顔ばっかり見つめてるんだもの……」

「そうだった?」

思わず腹から笑い出した。自分は、ただいつの間にか一ところを見つめていたばかりで、それが誰かの顔だか壁だか、見ているのではなかったのであった。