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ぜんきてんまやけ

前記天満焼

国枝 史郎

「文芸倶楽部」1927(昭和2)年6月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 48,568 字 · 98 页

青空文庫

と、黒鴨の武士であるが、別に切り込んで行こうとはせず、あべこべにヒョイと後退ると、ダラリと両手を両脇へ下げ、それからまたも懐手をしたが、薄っペラの調子で喋舌り出した。

「ざっとこんな恰好で。つまり貴殿不承知なら、秘密の小口を明かせた手前、生かしては置かぬ! 叩っ切る! と云うことになりますので。……と云うとおっかない話になるが、何のこんなにも旨い話、貴殿諾かずにおられましょうか。承知と云われるは知れたことで。……だが日当不足となら、清水の舞台から飛んだつもりで、一日十両まで糶り上げましょう。これでは御不満ありますまいな。手を拍ちましょう、シャンシャンシャン! いかがなもので? シャンシャンシャン!」

呑んでかかった態度である。

5

こいつを聞くと若侍は、にわかに愉快になったらしい。

「一風変わった悪党だわえ。よしよし面白い面白い、ひとつこいつの手に従いて、殺人請負業を開店いてやろう。天変地妖相続き、人心恟々天下騒然、食える野郎と食えぬ野郎と、変にひらきがあり過ぎる。こんな浮世ってあるものか。殺人だって必要さ」

そこで若侍はズバリと云った。

「きっと十両出されるかな?」