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ぜんきてんまやけ

前記天満焼

国枝 史郎

「文芸倶楽部」1927(昭和2)年6月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 48,568 字 · 98 页

青空文庫

「親分さんは御親切で、どんな者にでもお逢いになり、話を聞いて下さるそうで。……仲間中での評判でしてね。……お為になれば結構と存じ」

「よく解りました、有難いことで。……これはほんの志で。……オイオイお梅さんお梅さん、このお客さんへお酒をお上げ。ええとそれからおまんまをね」

居間へ引っ返した丁寧松はポカンとした顔で考え込んだが、やがて長火鉢のひきだしを開けると、ちいさい十呂盤を取り出した。

パチ、パチ、パチと弾き出した。

岡引の松吉は三十五歳、働き盛りで男盛り、当時有名な腕っコキで、十人以上の乾兒もあったが、どうしたものか独身であった。そうして彼は変人でもあった。起居も動作も言葉つきも、岡引どころの騒ぎではなく、旦那衆のように丁寧なのである。乾兒や乞食に対してさえ、丁寧な言葉を使うのである。

丁寧松の由縁である。

ところで彼は捕り物にかけては、独特の腕を持っていた。武器はと云えば十呂盤と十手で……

十手が武器なのは当然だが、十呂盤が武器とはどういうのだろう?

それは誰にも解らなかった。

とはいえ、彼は事件にぶつかると、きっと十呂盤を取り出して、掛けたり引いたりするのであった。