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ぜんきてんまやけ

前記天満焼

国枝 史郎

「文芸倶楽部」1927(昭和2)年6月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 48,568 字 · 98 页

青空文庫

「ずっと夜更けでございましたが、門を叩くものがございましたので、開けて見ますと加賀屋の提燈、手代風のお方が五六人、ゾロゾロ入って参りましたが、『大切のお客様でございますから、丁寧にあずかって下さるように』と、かように申してお連れして来ましたが、二十五六のお武家様で、宇和島様だったのでございますよ。本来なればそんな夜更け、お断りするのでございますが、名に負う加賀屋様の御紹介ではあり、立派なお武家様でございましたので、早速この座敷へお通し申し……」

「今朝まで安心していなすったので?」

「へいへい左様でございます」

「ええと、所で云う迄もなく、その加賀屋の手代衆は、お引き取りなすったでございましょうね?」

意味ありそうな質問である。

「はい……いいえ……お一人だけは……」

「え?」と松吉は訊き咎めた。

「一人どうしたと仰有るので?」

「お泊まりなすったのでございますよ」

「変ですねえ。……どこへ泊まりました」

「隣りのお部屋でございます」

「宇和島という侍の隣り部屋で?」

こう訊いた松吉の声の中に、鋭いもののあったのは、何かを直感したからだろう。

「はいはい左様でございますよ」