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ぜんきてんまやけ

前記天満焼

国枝 史郎

「文芸倶楽部」1927(昭和2)年6月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 48,568 字 · 98 页

青空文庫

「で、切ったのだ! 剖いたからの」

「では宇和島と宣った武士で?」

市郎右衛門はギョッとしたらしい。

「妾は知らぬよ。……切っただけだよ。……手配りをおし! 一刻も早く!」

「はい」と云うと走り去った。

なお、女は立っている。

「あいつのお蔭だ! ……大塩中斎! ……お気の毒な貢様! ……妾までこんな目に逢っている。……」

血刀が鈍く光っている。

「一世の碩学、貢の巫女……それから伝わったこの教法……滅ぼしてなろうか! 滅ぼしてなろうか!」

柏屋を飛び出た岡引の松吉は、この頃往来を走っていた。

16

だが、十間とは走らなかった。柏屋と斜めに向かい合い、表門の一所に桐の木を持ち、黒板塀に蔽われた、宏大な屋敷が立っていたが、ちょうどそこまで走って来た時、一つの事件にぶつかってしまった。

と云うのは二階の障子が開き、武士の姿が現われたが、松吉を目掛けて腕を振り、同時に障子を閉じたのである。

昼の日を貫き一閃したは、投げられた小柄に相違ない。同時にピシッと音がした。

すなわち岡引の松吉が、走りながらの神妙の手練、懐中の十手を引き抜くと、見事に払って捨たのである。

「うむ、やったな! 鮫島大学!」