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ぜんきてんまやけ

前記天満焼

国枝 史郎

「文芸倶楽部」1927(昭和2)年6月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 48,568 字 · 98 页

青空文庫

つくねんと坐っている松吉の、膝の直ぐ前に桃色をした昼顔の花が咲いている。

と、蜂が飛んで来たが、花弁を分けてもぐり込んだ。人の世と関係がなさそうである。

「と云ってもう一度柏屋へ行って、探りを入れようとは思わない。こっちの命があぶないからなあ。……鈴を振る音、祈祷の声、……その祈祷だったが大変物だった。……それからドンと首を落とした音! ……いや全く凄かったよ」

思い出しても凄いというように、松吉は首を引っ込ませた。

「そいつの一味に追われたんだからなあ。逃げたところで恥にはなるまい」

こう呟いたが苦笑をした。やっぱり恥しく思ったかららしい。

「いやいい所へ逃げ込んだものさ」

女役者の扇女の家へ、せっぱ詰まって転げ込み、扇女の侠気に縋りつき、扇女が門口に端座して、追手をあやなしている間に、二階の窓から屋根を伝い、裏町の露地へヒラリと下り、それからクルクル走り廻り、ここ迄辿り着いた一件を、心の中で思い出したのである。

「あれが普通のお神さんだったら、驚いて大きな声を上げ、俺を追手の連中へ、きっと突き出したに相違ない。世間に人気のある人間は、度胸も大きいというものさ。