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ぜんきてんまやけ

前記天満焼

国枝 史郎

「文芸倶楽部」1927(昭和2)年6月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 48,568 字 · 98 页

青空文庫

「どうして付けたね……え、眼星を! そうだよそうだよ、どうして今夜と?」

「申し上げたじゃアございませんか。ね、乞食の身分だと」

「それは知ってる、知ってるがね。……」

「下情に通じて居りますので」

「それも知ってる、知ってるがね。……」

「推察したのでございますよ。今夜あたりが天井だと」

松吉は黙って腕を組んだ。

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組んだその腕をパラリと解くと、

「素性を明かしておくんなせえ」

丁寧な語調で問いかけた。だが、態度には隙がない。

「さればさ」と云ったが沈痛であった。

「上州産れの乞食だと、こうもう私が云ったところで、合点をしては下さるまいねえ。……永らく私の住んでいた、その土地の名でも申しましょう。……遠い他国なのでございますよ」

「と云って唐でもありますめえ」

「いやその唐だよ、上海だ!」

「上海?」

「左様」

「そうでしたかねえ」

「この国へ帰ったのは一年前」

いよいよ沈痛の顔をしたが、

「追っかけて来たのでございますよ」

「何をね?」と松吉は突っ込んだ。

「大事なものを!」とただ一句だ。

「で、眼星は?」

「まず大体。……」

「付いた? 結構! 方角は?」

「あの方角で! 霊岸島!」