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ぜんきてんまやけ

前記天満焼

国枝 史郎

「文芸倶楽部」1927(昭和2)年6月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 48,568 字 · 98 页

青空文庫

即ち狂信者の連中が、三方四方に組を分け、包囲するように追って来たが、その一組がその方角から、こっちへ走って来るのであった。

「いけない!」と喚くと岡引の松吉は、身を飜えすと左へ曲がった。

なおも、ひた走るひた走る。

するとその行手からこっちを目掛け、狂信者の群が走って来た。

「いけない」と露路へ走り込んだ。

「どうぞお助け下さいまし」

露路に倒れていた一人の老婆が、腕を延ばすと縋り付こうとした。

「お粥なと一口下さりませ」

「こっちこそ助けて貰いたいよ」

振り切って松吉はひた走る。

出た所が川口町で、群集が飛び廻り馳せ廻っている。

大火になると思ったのだろう家財を運んでいる者がある。

ぶちこわしが恐ろしい連中なのであろう雨戸を閉ざす者もある。

露路に向かって駈け込む者、露路から往来へ駈け出る者……それで、往来はごった返している。

「うむ、これなら大丈夫だ。身を隠すことも出来るだろう」

松吉は背後を振り返って見た。薄紅い火事の遠照を縫って、青い火が一点ゆらめいて来る。

「どうもいけない、目つかりそうだ」

また走らなければならなかった。

出た所が富島町で、それを突っ切ると亀島橋、それを渡れば日本橋の区域、霊岸島から出ることが出来る。