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ぜんきてんまやけ

前記天満焼

国枝 史郎

「文芸倶楽部」1927(昭和2)年6月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 48,568 字 · 98 页

青空文庫

……火の手は上った。燃え上った。役目をしようぞ、風の役目を!」

火事場泥棒の心持である。ぶちこわしの騒動に付け込んで、悪事をしようと企んだのである。

自分自身が真っ先に立ち、混乱の巷へ押し出した時、一人の乞食が走って来たが、チラリ大学を横目で見ると、掠めるようにして馳せ違った。

「はてな、彼奴は?」と鮫島大学は、背後の方を振り返ったが、もうその時には乞食の姿は、暴徒に紛れて見えなかった。

しかし乞食は立ち去ったのではない。大学の屋敷の裏手の方に、身を潜めていたのである。

と板壁へ手をかけた。そうして次の瞬間には、屋敷の内側へ飛び込んでいた。

探すものでもあるのだろう。足音を盗んで入って行く。

一つの部屋の前へ来た時である。唄うような女の声がした。

扉を押しひらいた乞食の上州は、

「お妻殿か!」

「たあれ、貴郎は?」

上海風の部屋の中に、上海風の寝台があり、上海風の阿片食のお妻が、阿片の吹管を抱きながら洞然とした眼で見詰めている。

「拙者でござる。探しに来ました! ……それでもとうとう目つかった! ……ああそれにしても変わられたことは! ……」

凝然として突立った。