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けんのよんくんし

剣の四君子

吉川 英治

03 林崎甚助

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,514 字 · 22 页

青空文庫

「甚助どのの母御が、最上川の水に浸って、気を失うてござらっしゃる」

河往来の船子たちが知らせて来た。それはちょうど、朝の粥を炊いて、守人が、神殿の前に仆れている甚助の姿に気づき、驚いて、手当をしていた時だった。

幸いに、二人とも、蘇生した。元より母の楡葉のほうが恢復は早かった。楡葉は気がつくと、寝食も忘れて、子の枕元に坐ったきりだった。

甚助も日ならずして恢復した。

床を払って起きた日に、彼は、身の垢をそそぎ、衣服を更えて、

「母上、一緒に行って下さい」

と、云った。

「どこへ」

「神前へ、お礼詣りにです」

楡葉は頷いた。そして心密かに、わが子が百日の参籠とあの精進の結果、何ものか神霊の示顕を得て、志す剣の工夫のうえに、一つの光明を掴み得たにちがいないと思った。

「守人様、神灯しをお願いいたします」

社家へ声をかけると、守人も来て、神前に菅莚を展べ、母子の坐った端へ、自分も共に坐って、拍手をうち鳴らした。

「…………」

祈念をこめて、神へ心から額ずき終って後、楡葉は甚助へ問うた。

「何ぞ、神さまの、御霊現をうけたかや」

「いいえ、べつに」

「百日のあいだに、何もなかったかの」