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けんきょう

剣侠

国枝 史郎

「山形新聞」1936(昭和11)年3月~8月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 156,961 字 · 310 页

青空文庫

道中や温泉場などで親しくなり、同じ旅籠へ一緒に泊り、情を通じてたらすもあり、好きな男で無い場合には、すかし、あやなし、たぶらかして、油断を窺って有金から持物、それらを持って逃げてしまう、平ったく云えば枕探し、女賊になってしまったのである。

陣十郎の情婦になったのも、平塚の宿で泊まり合わせ、枕探しをしようとしたところ、陣十郎のために取って抑えられた、それが因縁になったのであった。

その女邯鄲師のお妻であるが、今度陣十郎と連立って、産れ故郷へ帰って来た。と、今朝高萩の村道を、懐かしい昔の仲間達が――すなわち秩父香具師達が、旅装束で通って行った。知った顔も幾個かあった。で、あまりの懐かしさに、冗談云い云いこんな森まで、連立って一緒に来たのであった。

「おや」と不意にお妻は云って、急に足を一所で止めた。

「こんなところに人間が死んでいるよ」

行手の杉の木の根下の草に、抜身を持った武士が倒れている。

「ほんに、可哀そうに、死んでらあ。……しかも若いお侍さんだ」

香具師達は云って近寄って行った。

お妻はその前にしゃがみ込み、その武士の額へ手をやったが、

「冷えちゃアいない、暖かいよ」