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けんきょう
剣侠
国枝 史郎
「山形新聞」1936(昭和11)年3月~8月18日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 156,961 字 · 310 页
源女は又も眼を閉じて、衣装籠に身をもたせていた。
眼の縁辺りが薄く隈取られ、小鼻の左右に溝が出来、見れば意外に憔悴もしてい、病んででもいるように疲せてもいた。
(ひどく苦労をしたらしい)
そう思うと浪之助の心持が和み、女を憐れむ情愛が、胸に暖かく流れて来た。
「お組、いままでどこにいたのだ?」
「旅に……旅に……諸方の旅に」
「旅を稼いでいたというのか?」
「いいえ。……でも……ええ旅に。……」
言葉が濁り曖昧であった。
「旅はいずこを……どの方面を?」
「どこと云って、ただあちらこちらを」
「ふむ。……一座を作って?」
「いいえ、一人で……でも時々は……一座を作っても居りました」
やはり言葉が濁るのであった。
「なぜそれにしても旅へ出ますと、わしに話してはくれなかったのだ」
「…………」
源女は返辞をしなかった。
睫毛が顫え唇の左右が、痙攣をしたばかりであった。
窓から西陽が射し込んで来て、衣桁にかけてある着替えの衣装の、派手な模様を照らしていた。
二三度入り口の暖簾をかかげて、一座の者らしい男や女やが、顔を差し込んで覗いたが、訳あるらしい二人の様子を見ると、入ろうともせず行ってしまった。