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けんきょう

剣侠

国枝 史郎

「山形新聞」1936(昭和11)年3月~8月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 156,961 字 · 310 页

青空文庫

「源女殿、要介じゃ。いつもの発作が起こられたか」

そう云った声が通じたと見える、源女は顔を上げて要介を見たが、

「先生!」とやにわに縋りついた。

「陣十郎が! 水品陣十郎が!」

「陣十郎が? どうなされた?」

「桟敷にいました! 妾につき纏い!」

「…………」

要介の顔色もにわかに変わった。

「彼、悪鬼、江戸まで来たか!」

「先生!」

「大丈夫」と要介は云った、

「ついて居る、わしが、大丈夫じゃ」

「はい……先生! ……でも妾は! ……恐ろしい、恐ろしい、恐ろしい!」

「自分で自分を苦しめてはいけない。……自分で自分を恐れさせてはいけない。……秋山要介が付いて居る」

剣鬼と剣聖

1

俺の長くいる場所ではない、こう思って浪之助がその部屋を出たのは、それから間もなくのことであった。

書割や大道具の積んである間を、裏木戸の方へ歩いて行った。

と、何かなしにゾッとした。

で四辺を見廻して見た。

書割が積んであるその横手の、薄暗い一所に水品陣十郎が、刺すような眼をしてこちらを見ていた。

「あ」と浪之助は自分ながら馬鹿な、と云うよりも臆病千万な、恐怖に似たような声をあげ、足を釘づけにしてしまった。