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けんきょう

剣侠

国枝 史郎

「山形新聞」1936(昭和11)年3月~8月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 156,961 字 · 310 页

青空文庫

今牛若と小天狗

1

武州入間郡赤尾村に、磯五郎という目明があり、同時に賭場を開いていて、大勢の乾児を養っていた。いわゆる二足の草鞋であって、渡世人からは卑怯であるとして、とかく悪口を云われるものであるが磯五郎ばかりは評判がよかった。それは人間が出来ているからであった。もう五十歳をいくつか出て元気も衰えたところから、御用の方は聞いていたが、賭場や乾児の世話などは、倅に委かせて隠居していた。

その倅が林蔵であった。

この頃林蔵は二十八歳、小兵ではあったが、精悍無類、それに大胆で細心で、父に勝る器量人、剣は父の磯五郎共々、秋山要介正勝に従いて学び、免許以上に達している。今牛若と綽名され、若親分として威望隆々、武州有数の大貸元であった。

ところが入間郡と境を接する、高麗郡の高萩村に、猪之松という貸元があり、この頃年三十一歳、小川宿の逸見多四郎に従いて、甲源一刀流の極意を極め、小天狗という綽名を受け、中年から貸元になり、博奕にかけてはほんの素人、それでいてひどく人気があり、僅かの間に勢力を延ばし、林蔵の大切な縄張りをさえ犯し、どっちかといえば現在においては、貫祿からも人気からも、林蔵以上と称されていた。