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けんきょう

剣侠

国枝 史郎

「山形新聞」1936(昭和11)年3月~8月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 156,961 字 · 310 页

青空文庫

それは水品陣十郎であった。

脱いだ編笠を手に提げて、その陣十郎は立木に背をもたせ、

「お貸元同志の一騎討ち、またと見られぬ真剣勝負、とくと拝見いたしましょう。が、もし高萩の親分にもしものことがございましたら、きっと陣十郎林蔵殿を、生かしてお帰しはいたしませぬ」

云い云い気味悪く白い眼で笑った。

7

猪之松が林蔵へ声をかけた。

「さあ乾児どもへも云い聞かせた。横から手出しはさせねえつもりだ。二人だけの太刀打ち勝負、遠慮なくどこからでも切り込んで来なせえ!」

ピタリと正眼に太刀を構えた。

「さすがは高萩の見上げた態度、それでこそ男だ気持がいいや。……行くぞ――ッ」と叫ぶと赤尾の林蔵は、脇差を抜くとこれも正眼に、ピタリとばかりに引っ構えた。

新影流と甲源一刀流、相正眼の厳重の構え、水も洩らさぬ身の固め、しばらくの間は位取ったばかりで身動き一つしなかった。

と、この時上尾の宿から、旅仕度をした一人の武士と、その連れらしい一人の女とが、差し出たばかりの朝日を浴びて、急ぎ足で歩いて来た。

鴫澤主水と澄江とであった。

昨日見かけた編笠の武士が、敵水品陣十郎か否か、それを窃に確かめようと、上尾宿の旅籠桔梗屋を立って、高萩村へ行こうとして、今来かかった途中なのである。