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けんきょう
剣侠
国枝 史郎
「山形新聞」1936(昭和11)年3月~8月18日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 156,961 字 · 310 页
主水は次第に後へ下った。
飛び込もうとしても飛び込めず、切りかかろうとしても切りかかれない。
業の相違、伎倆の差違、段違いの悲しさは、どうすることも出来ないのであった。
8
追い詰められながらも妹のことを、主水は暇なく思っていた。
多勢に一人、しかも女、どうしただろうどうしただろう? ……叫声がする! 悲鳴が聞こえる! ……殺されたのではあるまいか? ……背後は大薮、それに遮られて、俺の姿は見えないはずだ。案じていよう悶えていよう。……
上段に冠っていた陣十郎の刀が、忽然中段に直ったのは、主水が全く薮の裾に追い詰められた時であった。
「さあ追い詰めた! さてこれから……」
陣十郎はまた喋舌り出した。
「退くことはなるまい、切り込んで来い、親の敵のこの拙者だ、さあ討ち取れ、切り込んで来い!」
主水の咽喉へ切先を差しつけ、左の拳を丹田より上、三寸の辺りにぴたりとつけ、しかも腹部より二握りを距て、刀を構えて静まり返り、今度こそ切るぞ! からかうのは止めだ! こう決心をしたらしく、肺腑を抉るような鋭い眼で、主水の眼を睨み詰めた。
切先と眼とに圧せられ、主水はさながら蛇に魅入られた蛙、それかのように居縮んでしまった。