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げきだん「わらうようま」
劇団「笑う妖魔」
山本 周五郎
「少年少女譚海」1938(昭和13)年夏期増刊号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,705 字 · 18 页
――一杯の珈琲も残少くなった。まだ誰もやってくる様子がない。何気なく壁を見ると、いま開演中の「笑う妖魔」劇団のポスターが掛けてあった。……真中に大きく、妖女が牙を剥き出して笑っている絵があり、その下には巡業していた土地が列挙してある。五郎は何気なくその土地の名を読んでいったが、
――おや?
と急に眼を光らせた。
好評を得た各地として挙げてあるのは、長崎、小倉、別府、大阪、敦賀、静岡、横浜と七ヶ所である。
――みんな怪殺人事件のあった土地ばかりではないか。
そう思うと同時に、ポスターの妖魔の絵が、まるで殺人鬼のように見え、思わず五郎は慄然と身震いをした。――偶然の一致かも知れない。しかし事によるとこの劇団と怪殺人事件とのあいだに何か繋りがあるのかも知れぬ。もしそうだとすれば、ゆき子はその殺人鬼の手に捕えられている訳ではないか。
――もしそうだとすれば、
脇の下へ冷汗が滲み出た。そして思わずポスターから眼を外へ向けたとき、食卓の上へころころと紙を丸めたものが転げ落ちた。――誰か投げたものらしい。
――失敬な奴!
と思って振りかえると、今しも四五人の外国人が外へ出て行くところだった。