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かご
加護
宮本 百合子
「大阪毎日新聞(夕刊)」1920(大正9)年8月17日~28日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,147 字 · 33 页
「まあお恵さん……」
ふと会った視線を避け、お幾は思わず伏目になった。かねてから思いもし願いもしたことが、現在の事実となって目前に現れて見ると、彼女は些(すこし)も予想したような、晴々とした大悦びは感じ得なかった。
却って、何か今迄の自分の経験の中にはないものを、お恵さんは確かりと我ものにして、小さいながら、弱々しく見えながら厳かな重みを持て据ったような心持がする。お幾は、先刻(さっき)までは十分に重かった自分が、俄にふうっと他愛もなく軽いものになったような心持がした。
けれども、もう二十年も以前にその青春時代の教育をうけた彼女には、自分の胸に湧き起ったそれ等の気分がどこから来たのか細かに考えるだけの力は持たなかった。
富裕な、地上的にあらゆる幸福を身に備えた者が、それ等の甘美な恩寵から、不意な災禍で追放されることを恐れて始めた「信心ごと」は、不幸に不幸を重ねた者が、底の底から求めて神に双手を延した心持を、そう容易く直感することは出来ない。――
然し、お幾は、長く「考えても解らない理窟」に拘泥する質ではなかった。彼女は間もなく持前の愉快さを回復した。